情報×探究の授業づくり|小1のフローチャートで学びを深める

生活の経験を図で整理し、問いに沿って試し、予想と結果を照らして直し、次の理解へ返すオリジナル図
kaorusensei06

「フローチャートを作れました」で授業を終えてよいのか。私は、ここにもう一歩を加えたいと思っています。図にした順番で朝の準備を試し、「ここで戻ってしまった」「この並べ方なら次にすることが分かる」と、自分の生活へ返すところまで扱いたいのです。

1年生は、学校で教科を学んできた期間が上級生より短い一方、入学前から生活の経験を重ねています。経験の内容や、言葉にしやすさも一人一人違います。だからこそ、入学後に積み重ねてきた朝の準備を入口にし、誰かの正解を覚えるより、自分のやり方を見つめ直す授業を考えます。

具体的な5時間の計画やアプリの操作は、フリーボードのフローチャート授業案にまとめています。本記事では、その授業で何を育てたいのかを説明します。

Google AdSense

情報×探究とは?生活を見直すために、情報を整理して使う

ここでいう「情報×探究」は、毎日の出来事を記録・整理・表現し、自分で見つけた問いを確かめる授業の捉え方です。全国共通の正式な教科名や、特定の指導法の名称として使っているわけではありません。学校の教育課程上の位置付けは、生活科などとの関連も含めて検討します。

情報を扱う活動 探究として加える活動 子どもに聞く言葉
行動を一つずつ記録する 見直したいことを見つける 「どこで困る?どうなったらよさそう?」
順番・繰り返し・条件を図にする 変える理由と予想を持つ 「ここを先にすると、何が変わりそう?」
変更前後の図を残す 生活で試し、結果を照らす 「図の通りにできた?違ったのはどこ?」
友達の図や説明と比べる 自分に合う方法を選び直す 「まねしたいのはどこ?自分にも合う?」

iPadを使ったこと自体を探究の成果とはしません。本人が何をよくしたいと考え、何を手掛かりに方法を選び、結果をどう確かめたかが、授業の中身になります。

文部科学省の生活科解説は「生活から学び、生活に返す」方向を示す

生活科の解説では、児童の生活を学習の出発点とし、学んだことが学校・家庭・地域の生活に生きるようにする考え方が示されています。また、体験を言葉や絵、動作等で表し、振り返りや伝え合いを設けることが重視されています。文部科学省「生活編」第2章、本文9〜14頁。

この方向に照らすと、朝の準備を扱う意味は「速い子を増やす」だけではありません。本人が安心して進められる方法に気付き、忘れ物や迷う場面を減らし、生活を自分で整えていくことです。習慣を題材にする価値は、教科の知識が少ない分を補うことだけでなく、本人にとって切実な経験から考えられる点にもあります。ここは本授業への私の解釈です。

統合的な理解とは?行動を思い出し、関係まで捉える

文部科学省の論点整理ポイント資料では、知識や技能を関連付けて捉える「統合的な理解」と、課題解決に向けて思考・判断・表現を組み合わせる「総合的な発揮」が整理されています。図表本体では「知識及び技能に関する統合的な理解」「思考力、判断力、表現力等の総合的な発揮」と示されています。次期改訂に向けた検討資料として扱い、確定した指導要領の要件とは区別します。文部科学省の論点整理ポイント資料(詳細版)、本文6・7頁。

朝の準備を思い出し、図に並べることは、理解を見つめ直す入口です。ただ、それだけで統合的な理解に到達したと言い切るより、「行動同士の関係に気付き、別の場面にも使える見方を得る」ところまで考えると、ねらいがはっきりします。以下は、資料の考え方を低学年の授業に当てはめた本ブログの整理です。

段階 朝の準備の想定例 理解を確かめる問い
経験を取り出す 「かばんを開ける」「ノートを出す」を思い出す。 「いつも何をしている?」
関係を捉える かばんを開けないと中の物は取り出せない、と順序の理由を考える。 「この順番を変えてもできる?どうして?」
共通する見方を持つ 先にしておく必要がある行動、条件で変わる行動を見つける。 「同じ考え方が使えるところはある?」
別の場面で確かめる 授業の道具の準備や、雨の日の休み時間で使ってみる。 「朝以外でも、順番や条件を考えられる?」

「朝はこの順番」という一つの答えを覚えるだけでなく、「後の行動のために、先に済ませることがある」という見方を持つ。そこへ向かう過程を、図と本人の説明から見取りたいです。

総合的な発揮とは?図に従うだけでなく、状況に合わせて判断する

図の矢印をたどって動くことは、方法を確かめる一歩です。さらに、提出物がいつもより多い日、棚の前が混んでいる時、友達の方法が自分には合わなかった時に、目的や学校の約束を踏まえて選び直す。ここに、知識や技能を使いながら考え、判断し、説明する場面をつくれます。

使う手掛かり 子どもが働かせること 結果と照らすこと
行動の図 順序やまとまりを選ぶ。 実際に進められたか、途中で迷ったか。
時計や終わりの合図 必要な準備と次の活動を考える。 慌てず移れたか、確認が残ったか。
学校の約束・その日の状況 安全や他の人との関わりを考えて調整する。 順番を変えても、守る約束を保てたか。
友達の説明 自分の問いに合う工夫かを判断する。 取り入れた理由と、試した結果がつながるか。

順番を一度決めたら守り続けることではなく、うまくいかなかった理由に気付き、必要な修正を選ぶことまで含めます。図は、生活を縛るための指示書より、生活を見直すための仮説として扱いたいです。

理解と発揮は、一方向に進むだけではない

生活の経験を図で整理し、問いと予想を持って試し、結果を照らして直し、その経験を次の理解へ返す循環図
文部科学省の図を転載したものではなく、本授業の考え方を示すオリジナル図です。

図を作った時には納得していても、実際に動くと別の問題が見えることがあります。その結果から図を直すことで、順序や条件の意味も捉え直せます。「理解してから使う」を一度で終えるより、使った結果が理解へ戻る往復を、単元の中に置きます。

研究者の知見から見る|振り返りを、次の方法へつなぐ

植阪友理氏の2010年の研究は、教訓帰納という学習方略が、数学から別の学習へ使われていく過程を、中学2年生の事例から検討しています。これは小1の朝の準備を検証した研究ではありません。本授業では、結果の感想に加え、方法や理由を取り出し、次の場面へつなぐという授業設計の参考にします。植阪(2010)の論文。

瀬尾美紀子氏らが報告した2013年の中学校の学習法プログラムでも、誤りの原因や次にどうすればよいかを振り返る教訓帰納が扱われています。市川伸一氏の研究に由来するこの見方を、低学年へそのまま同じ課題で適用するのではなく、短い言葉と図で「次に使えること」を見つける形に置き換えます。瀬尾・赤坂・植阪・市川の報告、本文29頁以降。

振り返りの想定 教師が加える問い 次につながる記録
「できた」「楽しかった」 「どこを変えたら、進めやすかった?」 変更したカードを丸で囲む。
「また棚に戻った」 「戻った時、何が必要になった?」 出し忘れた物と、その前の行動を残す。
「友達と同じにした」 「その方法は、自分の何を助ける?」 取り入れた理由と、自分用に変えたところを残す。
「速く終わった」 「忘れた物はない?落ち着いてできた?」 本人の問いに合う結果かを確かめる。

小1にもメタ認知を扱える?短い問いと具体物で支える

メタ認知は、自分がどう考えたり進めたりしているかを確かめ、必要に応じて方法を調整する働きとして捉えます。この授業なら、「自分はどこで迷うかに気付く」ことと、「迷いにくい順番へ変えて試す」ことをつなぎます。振り返りの文章が長いほど、メタ認知が育ったと判断するわけではありません。

Dignath、Buettner、Langfeldt(2008)は、小学生を対象とした自己調整学習の支援研究をまとめ、初等段階でも支援の効果が見られると報告しています。一方、自己調整学習には認知・メタ認知だけでなく動機付け等も含まれます。小1のこの5時間で同じ効果が出ると保証する研究ではありません。初等段階の自己調整学習支援に関するメタ分析。

私は、1年生に専門用語を説明するより、「やる前」「やっている時」「やった後」に短い問いを置きます。書くことが難しい子は、図を指したり、実際に動いたりしながら答えても構いません。先生が言葉を一緒に整え、本人の気付きを次の試し方へつなぎます。

場面 声かけ 残すもの
やる前 「今日は、どこを変えてみる?」 試す変更を一つ。
途中・直後 「どこで止まった?図と違ったところは?」 実際に困った場面。
やった後 「予想と同じだった?次はどうする?」 予想との違いと、次の方法。

探究は、子どもに全部任せることではない

Hmelo-Silver、Duncan、Chinn(2007)は、問題解決・探究型の学びを、支援のない発見学習と同一視することに異議を示し、学びを支える足場掛けの役割を論じています。探究・問題解決学習の支援に関する論文。

本授業への当てはめは、教師がゴールや安全の約束を示し、行動カード、問いの選択肢、図の見本、確かめ方を用意することです。その中で、何を変えるか、結果をどう受け止めるかを本人が選びます。支援があることと、自分で考えることは両立させたいです。先生が正解の順番を完成させて配るだけにも、困っている子を見守るだけにもならないようにします。

友達の行動を比べる意味|優劣より、理由と条件を見る

友達の図が見えると、自分の当たり前とは違う順序や工夫に気付くきっかけになります。ただし、見せ合いをしただけで客観的に見られるようになったとは言い切れません。「同じなのはどこ」「違う理由は何」「自分にも合うか」を確かめる問いを用意します。

机や棚の位置、持ち物の量、必要な支援が違えば、合う手順も違います。「一番速い図」を選ぶより、自分の問いに合う方法を選び、その理由を説明できることを大事にします。友達から得た方法を自分用に直すところまで扱うと、比べたことが生活の改善につながりやすくなります。ここは本記事の授業提案であり、この活動の効果を測定した報告ではありません。

効率化だけを目的にしない|安心して生活を整える

先生が急いでほしい場面と、子ども自身が困っている場面は、必ずしも同じではありません。休む時間、気持ちを切り替える時間、支援を受ける時間は、その子に必要なことがあります。「無駄をなくそう」と責めるのではなく、「何が分かると、朝が過ごしやすい?」と聞きます。

学校の約束や安全は教師が支え、本人が改善したいことを選ぶ。試してうまくいかなかったことも、次の問いが見えた結果として扱う。日常生活にも探究があると感じられる授業にするには、この余地を残したいです。

部会で説明するための文章|経験を、使える見方へ育てる

この文章に、実際の学級で見た困りごと、支援が必要な場面、修正前後の図を添えると、部会では「何のアプリを使ったか」から「どんな理解が変わったか」へ話を進められます。記録がない段階では、効果を言い切らず、確かめたい子どもの姿として共有します。

見取りの例|深い学びを、提出物だけで決めない

確かめたいこと 見る材料 次の授業への問い
順序や条件の意味を説明するか 図をたどる説明、別の場面への当てはめ。 「別の順番でもできる?」
自分の問いに合う変更を選ぶか はじめと修正後の図、変更理由。 「何をよくしたくて変えた?」
予想と結果を照らしているか 生活場面の短い記録、本人の説明。 「予想と違った時、どうした?」
次へ使える見方を得ているか 別の準備や雨の日などでの説明。 「ほかの場面なら、どう使う?」

図の数、修正回数、発表の多さだけで理解を判定しません。「図を見て次が分かった」「条件が違う日は別の方法を選んだ」といった過程を、本人の説明と生活場面の記録から確かめます。

研究の根拠と、この授業への解釈を分けて読む

資料・研究 扱っていること 本授業への使い方と限界
文科省・生活科解説 体験、気付き、表現、生活へのつながり。 生活を出発点とする授業の教育課程上の参考。
文科省・論点整理資料 知識・技能の関連付けと、課題解決へ力を働かせる捉え方。 授業目標を整理する参考。次期改訂の検討資料である。
植阪(2010)/瀬尾ら(2013) 中学生の学習方略や振り返り・転移。 結果から次の方法を得る設計の参考。小1の効果を直接示していない。
Dignathら(2008) 小学生への自己調整学習支援の研究を集めた分析。 低年齢でも支援する意義の参考。この授業やフリーボード自体の効果ではない。
Hmelo-Silverら(2007) 探究・問題解決学習における支援の役割。 見本や教師の対話を用意する参考。本授業への適用は筆者の提案。

授業案と参考文献

Xからの読者コメントをお待ちしています。
ブログ更新の励みになります!
Google AdSense
ABOUT ME
かおる先生
かおる先生
小学校教諭
大学・大学院では教育や技術について学び、小学校教諭免許に加えて、中学校(技術)および高等学校(情報・工業)の専修免許も取得しました。 「知ることの入り口」に立つ児童たちに、わかりやすく伝えることに大きなやりがいを感じ、現在は小学校の教員として日々子どもたちと向き合っています。またこの場では、日々の教育現場で役立っている業務効率化や時短の工夫、ちょっとした小技に加えて、趣味でもあるガジェットについての話題も交えながら、さまざまな情報をまとめていきたいと考えています。
Google AdSense
記事URLをコピーしました